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コラム:海外での子育て中の方へ届けたい思い


今回は、当法人で「ことばすくすくライブ♪」を担当している副島栄美言語聴覚士によるコラムをお届けします。

海外での子育ての経験から、当法人で、在外邦人支援部門で活躍中の言語聴覚士です。

是非ご一読ください。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


言語聴覚士とつながる未来ー専門家の力を、必要な方へ届けたい

 子育てをする親は、多くの喜びとともに孤独や不安を抱えることも少なくありません。慣れない環境での育児、相談相手の不足—すべてが予想していた以上に大きな負担となることがあります。


 私は、4歳と0歳を連れて主人の海外赴任に帯同した経験があります。一見すると、海外での子育て生活は華やかで魅力的に見えるかもしれません。しかし、実際にはキラキラした生活はほんの一部にすぎません。異国の地での暮らしは、日本では経験しないような小さな大変さの連続です。たとえば、日常の買い物ひとつ取っても簡単ではないことがあります。


 信じられないかもしれませんが、スーパーに行ってまず何を買っていいのか分からないのです。今日子供に何を食べさせたらいいのか分からず、食材の買い物だけでとっても長い時間を使い、それだけで疲れてしまいました。言葉の違い、食材の違い、現地の文化や習慣に慣れ、それを楽しめるようになるまでには、それなりに時間がかかりました。


 気候や衛生状態の違いですぐに病気に感染する4歳の幼稚園児を病院に連れていくと、一緒に連れて行った0歳児が別のウィルスをもらい感染し、さらに私がもらい嘔吐しながら母乳をあげなくてはいけないような事も何度も経験しました。気軽に母子で遊びに出かけられる日本の児童館や支援センターのような環境はないため、出掛ける事へのハードルが上がり、親子で閉塞感を感じやすくなるのも事実です。


 また、日本のように健診がない地域が多いため、同月齢の子供たちのママと知り合ったり、日本の保健師さんのような子育ての困りごとを気軽に相談できる方も周りに少ないのが現状です。言語の壁や文化の違いによって、現地の親たちと関係を築くのが難しくなることもあるでしょう。子育ての情報が入りにくくなることで、育児に関する不安をひとりで抱え込んでしまうことも少なくありません。

 現地の学校の先生との面談も、子供の様子を現地の言葉で聞き取り、また疑問や不安に思っていることを日本語ではない言葉でやり取りすることに常に不安を抱えていました。先生とのやり取りの中で、些細なニュアンスを先生から受け取れないことや伝えられないことがよくあったからです。そして心のどこかで『あのママは、言葉が通じないから分からないだろう』と思われているんじゃないかと、時には自分自身を母として無能に感じることもありました。


 私の住んでいた地域には、日本人の運営するプレイグループがあり、そこでたくさんの日本人ママたちと知り合い、情報交換ができました。そしてその中で気軽に子育ての悩みや、発達の悩みを相談できていました。同じ境遇の子育てママ同士で悩みを分かち合うことは、とてもリフレッシュできました。


 プレイグループの先生や幼児教室の先生、母乳ケアやベビーマッサージなどの看護師さんに、私が言語聴覚士ということをお伝えしてから「もう少し様子みようかと思いながら、もうすぐ幼稚園の年齢になってしまった」、「小学校に入るのに、まだかきくけこが言えない」等の相談が先生を介して多く寄せられるようになりました。


 これらの経験から、すぐに発達の専門家へアクセスできない地だからこそ、日本語で相談できることばの専門家である言語聴覚士の必要性を強く感じました。そして、帰国が決まった後も、支援していたお子さんたちをそのまま残して来ることができず、オンラインで支援し続ける事を選択し、私は2019年に世界中どこのからでもオンラインで相談できる『TOKYOことばサロン』を立ち上げるきっかけとなりました。言語聴覚士を必要な方に届けたいという同じ思いの元、現在当法人で活動しています。


 オンラインを活用することで、どこにいてもことばの相談をしたいときに、気軽につながることができます。専門家の知識を得ることができる環境があれば、子育てはより安心して楽しめるものになります。時間や場所の制約を超え、必要なときにサポートを受けることができるのは、オンラインの大きな魅力です。


 海外にいる場合は、日本語で相談できることの安心感も大きな支えになります。慣れない国での子育ては、戸惑うことも多く、気軽に相談できる人が近くにいないと不安を抱えやすくなります。しかし、日本語で専門家に相談できる場があれば、些細な悩みでも気軽に相談でき、安心して子育てを続けることができます。特に、子どもの日本語発達に関する悩みを、日本語で相談できる専門家がいることで、「バイリンガルだから様子をみよう」「早生まれだから様子をみよう」「私の接し方が悪いのか?」等の親としての不安を早期に軽減し、お子さんにとっても適切な言語環境を整えることが可能になります。


 どこにいても、子育てをしていると、他の子よりもできないことが多く見えて、誰にも相談できずに孤独を感じることもあるかもしれません。子どものことばの発達を支えながら、保護者自身も安心して子育てを楽しめるように、言語聴覚士の存在をもっと多くの人に知ってもらえるように活動していきたいと思います。

言語聴覚士 副島栄美


国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科卒業。 言語聴覚士として小児から成人の言語領域の評価・訓練に携わり、言語発達相談や幼児・就学前検診、ことばの評価・訓練にも従事。海外駐在に帯同した期間には、日本人の基幹病院での勉強会や、お子さんのことばの発達に不安をもつ親御さんの個別相談、コミュニケーションや発音に悩みを抱える小児サポートを行う。

『TOKYOことばサロン』主宰。

2024年度より当法人在外邦人支援部門にて活躍中、ことばすくすくライブ♪案内人。



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