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鼻咽腔閉鎖機能のおはなし


設立3周年を記念して、東京大学医学部附属病院 髙橋路子STによる保護者の方・ご本人向け向けの「鼻咽腔閉鎖機能のおはなし」をお送りいたします。


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「発音が不明瞭」と一口に言っても、原因となる病気がはっきりとしている場合、特にこ

れといった病気がない場合、発達途上によくみられるものなどがあり、必要となる検査も

様々です。

お子さんやご自身の口蓋裂の定期検査のために病院に行った時や、発音が不明瞭で専門家に相談に行った時などに、単語や文を話す検査とは別に、手の平くらいの小さなステンレス板(鼻息鏡・びそくきょう)を鼻の下に当てる検査を受けた方もいらっしゃるかもしれません。

声を出した時やストローを吹いた時などに鼻から息が出て鼻息鏡が曇るか、曇らないかなどを調べています。

いったい何のための検査だったのか、その際に説明を受けていても、なかなか一度では理解しきれないこともあると思います。


これは「鼻咽腔閉鎖機能(びいんくうへいさきのう)」という機能を検査するもののひとつなのですが、今回はその鼻咽腔閉鎖機能のおはなしです。


▼鼻咽腔閉鎖機能とは


鼻咽腔閉鎖機能とは、上顎の軟口蓋(なんこうがい)という部分の動きを中心とした、口

の空間と鼻の空間を分離する機能のことで、お喋りをする時や食事をする時、吸ったり吹い

たりする時に必要な機能です。


横顔の断面図を見てみましょう。


矢状面図 安静時(左)と閉鎖時(右)
矢状面図 安静時(左)と閉鎖時(右)

上顎の色が塗られている部分には骨がなく動かすことができ、ここを軟口蓋(なんこうがい)といいます。そこよりも唇寄りの上顎は骨が存在し動かせない部分で硬口蓋(こうこうがい)といいます。


※口の中の器官や役割については、こちらの動画構音説明動画その1のリンクでもう少し詳

しくご紹介しています。




特に何もせず鼻呼吸をしている時【安静時・図左】には口と鼻を空気が行き来する空間が

あるのがわかります。「あー」と声を出す時や、何かを飲み込む時など【閉鎖時・図右】に

は、軟口蓋が後ろの上の方に持ち上がり、鼻に空気や飲食物がいかないように閉鎖をしてい

ます。この機能が鼻咽腔閉鎖機能です。


▼鼻咽腔閉鎖機能不全とは


何らかの要因によってこの鼻咽腔閉鎖機能が十分でない状態を「鼻咽腔閉鎖機能不全(びいんくうへいさきのうふぜん)」と呼びます。

お喋りをする時に本来口から息を出すべきところで鼻に空気が回ってしまうので、ふわふわとした聞き取りにくい声になります。ご本人が普通に声を出して正しい発音でお話ししていても、会話相手から何て言ったのかと聞き返される場面が出てきます。

発音を覚えている途中の幼い時期に鼻咽腔閉鎖機能不全の状態ですと、それを補うために誤った独特の発音を身につけてしまう事もあります。また、飲んだり食べたりしたものやうがいの水が鼻に回って、鼻から出てきてしまう事もあります。鼻に空気が漏れてしまうため、リコーダーなど吹く楽器の演奏が難しくなる場合もあります。


口蓋裂で生まれた方は小さい時に手術をして良好な鼻咽腔閉鎖機能を獲得できるようにしてあるのですが、成長して身体が大きくなるにつれ機能が不十分になってきたり、噛み合わせを手術で治すにあたって機能不全になってしまったり、ということもある程度は避けられません。そのため、歯科矯正治療が終了するまでは継続して診察を受けることが大切になります。


鼻咽腔閉鎖機能不全に関連する病気は生まれつきのものですと、先ほども挙げた口蓋裂の他、粘膜下口蓋裂、先天性鼻咽腔閉鎖機能不全症、第一第二鰓弓症候群などがあります。

小さい時には病気がなくても、腫瘍(口蓋腫瘍、咽頭腫瘍、舌腫瘍)や外傷による上顎の

欠損や神経の損傷、神経疾患(脳卒中、脳腫瘍等)によっても鼻咽腔閉鎖機能不全を来すこ

とがあります。


▼鼻咽腔閉鎖機能不全の対応


鼻咽腔閉鎖機能不全の改善には口蓋形成術・再口蓋形成術や咽頭弁形成術といった手術や補綴物(お口の中に入れる装置)の作成が必要となります。

口蓋裂などでかかりつけの病院がある方は、主治医とご相談ください。

これまで一度も診察を受けたことがないけれど鼻咽腔閉鎖機能についてご心配のある方は、普段おかかりの歯科や耳鼻科、小児科の先生にご相談してみてください。手術については口腔外科、形成外科、耳鼻咽喉科などでご相談いただくことが出来ますが、大きい病院ですとかかりつけ医の紹介状を求められることが多いです。

ことばの発達などですでに言語聴覚士の療育を受けている場合などは、担当されている言語聴覚士にご相談いただくと良いと思います。



発音や声のご心配につきましては、わたしたち、ことばサポートネットにご相談いただく

ことも出来ます。オンラインでのご相談ですので鼻からの空気の出方を直接確認できない

など制約もありますが、お声を聞きながら受診の必要性などを相談していくことが出来ま

す。

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著者:言語聴覚士 髙橋路子

(一般社団法人ことばサポートネット 理事、 東京大学医学部附属病院 )

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